賃貸住宅を利用している方の中には、退去する時に原状回復を求められることもあります。原状回復というのは、その部屋を借りる前の状態を保つことを言い、これに費用がかかる場合は、借主がその費用を負担する場合もあるのです。そこで、今回は原状回復の借主の負担はどれくらいなのか、その義務の範囲についても紹介します。

◆貸主と借主の原状回復の義務範囲

基本的に原状回復を行わなければいけない部屋としては、「汚れている」「傷がある」「劣化している」など色々あります。借りる前からそういう状態であれば良いのですが、自分が借りてから新しくできた傷や汚してしまった部分に関しては、修繕することが必要となります。それを修理や補修と呼び、その費用負担は原則としては借主にのしかかることがある訳です。

しかし、自然損耗や経年劣化による建物の損傷や劣化に関しては、原状回復の義務がありません。借主はその点は安心して借りられるようになっているので、全ての方に原状回復の義務があるということではありません。ただし、借主の故意や過失によって部屋に何かしらのトラブルや問題が発生した場合は、退去する時に原状回復しなくてはなりません。

とても分かりやすい例を用いると、例えば自分が部屋のインテリアを移動させていて、それを誤って落としたり、倒したりした時にできた傷や損傷は原状回復の対象となります。しかし、地震などによって家具が倒れ、部屋がダメージを受けた場合は、原状回復の対象にならないこともあるのです。その点は、部屋を契約する時に建物賃貸借契約で決められるので、事前にしっかりと確認しておくことが必要となります。

義務の範囲としては、貸主の過失なのか借主の過失なのかによって、大きく変わってきます。基本的には借主に何も問題がない場合も多いので、あまり不安になる必要はありません。賃貸住宅の場合、敷金から原状回復に要する費用を差し引いて清算するのが一般的です。

◆貸主と借主のトラブルを避けるために

近年でも、貸主と借主の原状回復などに関するトラブルが起こることはあります。無用なトラブルを避けるために、過去の例から対策を考えてみましょう。実際に不動産を運営している大家とのトラブルによって裁判になったケースがあります。そこで、現在は経過年数や残存価値によって負担額を決めるようになっています。

その裁判では、借主の過失によって壁に穴が開いた壁のボードと壁紙の張り替えに関して、借主の負担になっています。当然、これは借主が故意に壁に穴を開けたと見なされ、原状回復費用を負担するということになった訳ですが、問題となったのは壁紙です。この裁判では、当時壁紙が2年前に張り替えられたものだと判明したため、残存価値の60%の費用負担となったのです。それとは別に、換気扇が借主の不注意によって焼け焦げたのですが、これも設置してから12年も経過していたため、残存価値の10%の負担となりました。

つまり、重要となるのはその不動産や設備などが持っている残存価値が重要なポイントとなる訳です。例えば、100万円のキッチンがあったとして、それが経年ごとに価値が低下していくように、数年後には価値が80万円になっているかも知れません。その場合、100万円の価値がある時にキッチンを壊した場合は、負担する金額も大きくなりますが、80万円の価値に下がってから原状回復した場合は、80万円に対して何%の負担になるのかが重要となるのです。

ものというのは、時間が経過すればするほど劣化していくものなので、その点も考慮して原状回復を考えていくことが必要となります。つまり、大家に「100%原状回復してもらいます」と言われても、「残存価値はどれくらいなのか」「劣化状況はどれくらいなのか」「自分の過失はあるのか」という点などから、総合的に考えていく必要があるのです。

ただ、そういった原状回復の費用が不透明だからこそ、トラブルや問題の原因になっていることもあります。普段から大家やオーナーとの関係は良好にしておき、借主はある種、誠心誠意ある対応が求められます。どこまでが借主の負担になり、どこまでが貸主の負担になるのかについては、話し合うことも時には重要です。裁判を行なえば、むしろそちらの費用の方が大きくなってしまうこともあるので、最初からトラブルにならないように、「これは自分の過失だ」と認めることも必要なのではないでしょうか。

日常生活の使用範囲内なら負担は不要

中には原状回復によって、常に綺麗な部屋の状態を保っている貸主もいて、壁紙などに因縁を付けて「これは原状回復しないとダメです」というようなことを言ってくる相手もいるかもしれません。基本的に壁の穴などは、画鋲などによって空いてしまうことが多いですが、これは下地のボードまで張り替えする必要はないかもしれません。そういう時は、通常の生活での使用範囲内となるため、貸主側への負担は必要ないのです。

また、その逆のパターンもあって、借主が何かしらの理由で部屋を破損・損傷させた場合に、自分で修理してごまかすということもあります。穴が開いていても方法によっては埋めることができますし、傷に関してもごまかせてしまうのが現状です。だからこそ、貸主も注意しておくことが必要です。どちらも悪質な行為に関しては認められないので、誠意ある対応を見せるようにしましょう。

クリーニング代はどうなるの?

意外と悩む方が多いですが、原状回復が必要となることがなくても、部屋を綺麗にして出ていくことが必要となり、クリーニングを頼む方もいます。その場合、負担となるのはどちらになるのか気になるところです。

クリーニングに関しては、退去時に通常の清掃がしてあれば十分なので、原状回復自体必要がありません。自分で掃除できる範囲で掃除すれば良いです。ただ、特約にクリーニングについて盛り込まれていることもあるため、その場合は、金額に妥当性があれば借主が負担するということもあるので注意してください。

原状回復の範囲については、それぞれ貸主と借主によって異なります。どちらも過失があるかどうかが重要で、さらには経過年数や残存価格も重要なポイントとなります。双方が正しい方法で原状回復を進められるように、しっかりと考えておくことが必要です。