不動産を売却するとき、査定価格がどのように決まるのか気になる方は多いのではないでしょうか。実はその裏側には、売却予定の物件について細かな情報を集め、法的な制限や設備状況、土地・建物の状態などを確認する「物件調査」という重要なプロセスがあります。

物件調査は、現地確認だけでなく、法務局や役所での資料収集、周辺環境の確認など、多岐にわたる項目を総合的にチェックする作業です。調査の結果は査定価格に直結するだけでなく、売却後のトラブル防止にも欠かせません。

しかし、初めて不動産を売ろうとしている方にとっては、何をどこまで調べるのか、どんな手順で進むのか、イメージしづらい部分も多いでしょう。

本記事では、不動産売却のスタート地点となる「物件調査」について、目的・種類・流れをわかりやすく解説します。売却を検討している方はもちろん、これから不動産の知識を深めたい方にも役立つ内容です。

物件調査は適正な価格設定と安全な取引のために欠かせないプロセス

不動産を売却する際、最初に不動産会社が取りかかるのが「物件調査」です。これは、売却予定の土地・建物について法的な制限から設備の状態まで幅広く確認し、査定価格の根拠を整えるための専門的な業務です。

物件調査は、単に現地を見て回るだけではありません。役所での法令確認、法務局での権利関係の調査、市場動向の分析など、複数の調査を組み合わせて初めて正確な価値が導き出せます。

不動産の売却は、専門知識がない個人同士で成立させるにはリスクが高い取引です。売主も買主も安心して契約に進めるよう、不動産会社が代行して物件調査を行い、正確な情報を整えることが不可欠となっています。

物件調査の内容は、適正な査定額の算出だけでなく、売却戦略の立案や契約後のトラブル防止にも直結します。調査が不十分で誤った情報を伝えてしまうと、宅建業法による行政処分や損害賠償に発展することもあり、慎重かつ丁寧な調査が求められるのです。

このように物件調査は、弊社を含む不動産会社が売主の代理として行う重要な役割であり、安心して売却活動を進めるための基盤づくりともいえます。

不動産売却前に行う物件調査の主な方法

売却のご相談をいただいたあと、私たち不動産会社はすぐに「物件調査」に着手します。この調査は、大きく分けて次の六つの視点から進めていきます。

  • ・物件の基本情報・権利関係のヒアリング
  • ・現地での状況確認
  • ・法務局での登記・権利関係の確認
  • ・役所での法令・道路・都市計画の確認
  • ・ライフライン(インフラ)の調査
  • ・市場相場・取引事例の調査

それぞれ、どのような内容を確認しているのかを整理してみましょう。

1. 売主へのヒアリングで「物件の素顔」を把握する

最初のステップは、売主からの聞き取りです。登記簿や図面だけでは分からない情報を、会話の中で整理していきます。たとえば、次のような点を確認します。

  • ・物件の種別(戸建て・マンション・土地など)、面積、現状の使われ方
  • ・住宅ローンの残債や借入先
  • ・固定資産税や管理費・修繕積立金の滞納状況
  • ・相続が絡む場合の相続人関係
  • ・賃貸中かどうか、不法占有者がいないか
  • ・過去のリフォーム・増改築の有無
  • ・近隣との境界トラブルや越境の有無
  • ・付帯設備の状態や不具合の有無

この段階での情報は、後の現地調査や役所調査の「下調べ」にもなり、査定額だけでなく売却戦略を考える上でも重要な材料になります。

2. 現地調査で周辺環境や実際のコンディションを確認

次に行うのが、現地に足を運んでの調査です。図面やインターネットの情報では分かりにくい「現場感」を、ここでしっかり確認します。

主なチェックポイントは、次の通りです。

  • ・土地の高低差や形状、地盤の状態
  • ・前面道路の幅員、舗装状況、通行量、街灯などの整備状況
  • ・境界標の有無、隣地工作物や樹木の越境の有無
  • ・周辺環境(学校・スーパー・病院など生活施設、嫌悪施設の有無)
  • ・日当たり、風通し、騒音や臭いの状況
  • ・建物の外観・内装の劣化状況、雨漏り跡などの有無
  • ・過去の災害履歴や近隣での事故情報がないか など

「道路はあるが実際はほぼ行き止まり」「工場からの臭いが強い」といった点は、現地を見ないと分かりません。売却後の「聞いていなかった」といったトラブルを防ぐためにも、丁寧な現地確認が欠かせません。

3. 法務局で登記情報・権利関係をチェック

法務局で行う調査では、物件に関する公的な情報を確認します。

取得する主な書類は次のとおりです。

  • ・登記事項証明書(登記簿)
  • ・公図
  • ・地積測量図(必要に応じて建物図面も)
  • これらをもとに、

    • ・現在の所有者が誰なのか
    • ・抵当権や根抵当権など、金融機関の担保権がどれくらい付いているか
    • ・共有名義かどうか、持分比率はどうなっているか
    • ・地目・地積・建物の床面積が実態と食い違っていないか

    といった点を確認していきます。

    登記上の所有者と、売却を希望している方の名義が一致していなければ売却手続きは進められません。また、抵当権が残っている場合は、どのタイミングで抹消するかも含めて、早い段階で整理しておく必要があります。

    4. 役所調査で法令制限・道路状況などを確認

    市区町村役場や都道府県の担当部署を回り、対象不動産にかかる法令上の制限や道路・都市計画の状況を調べます。

    代表的な確認内容は次の通りです。

    • ・用途地域、建ぺい率、容積率、高さ制限、斜線制限、防火・準防火地域など
    • ・土地区画整理事業区域、都市計画道路予定地かどうか
    • ・宅地造成等規制法、景観法、農地法など、その他の制限の有無
    • ・前面道路の種類(公道・私道)、幅員、位置指定道路かどうか
    • ・上下水道・雨水排水などインフラの整備状況

    これらは、将来の建て替えや増改築、リフォームの自由度に直結します。「買ってから増築しようと思ったら法令で不可能だった」といったトラブルを防ぐためにも、売却前にしっかり確認しておくことが大切です。

    5. ライフライン(インフラ)の整備状況を詳しくチェック

    生活に欠かせない設備の調査も、売却前の重要なポイントです。役所調査で大枠を確認したうえで、より具体的な内容を詰めていきます。

    たとえば、

    • ・上水道・井戸など飲料水の供給方法
    • ・下水道か浄化槽か、その維持管理状況
    • ・電気容量や引き込み状況、電柱の位置
    • ・都市ガスかプロパンガスか、メーターや配管の状態
    • ・将来的に設備更新や新設が必要な場合の工事費用の目安

    といった点です。

    インフラが十分でない物件は、そのままでは買い手が付きにくいケースも少なくありません。その場合は「引き渡しまでに売主負担で整備する」など、条件付きでの売り出し方針を検討していくことになります。

    6. 市場相場・取引事例から適正な価格帯を見極める

    物件の状態や法的な条件を整理できたら、最後に「いくらで売り出すか」を決めるための市場調査を行います。

    具体的には、

    • ・同じエリアで現在販売中の類似物件の価格帯
    • ・過去に成約した近隣物件の取引事例
    • ・その地域の供給量・需要のバランス、価格の推移傾向

    などをチェックしながら、現実的かつ魅力のある価格帯を探っていきます。物件の個性(立地・広さ・築年数・管理状態など)と市場データを組み合わせることで、「高すぎて売れない」「安く出しすぎて損をする」といった状況を避け、適正な査定額・売出価格を導き出していきます。

    不動産売却前の物件調査に費用はかかるのか

    「調査」と聞くと、別途費用がかかりそうに感じる方も多いですが、通常の不動産売却における物件調査については、売主が個別に調査費を支払うケースは多くありません。ただし、調査の結果によっては、測量や登記といった追加手続きが必要になり、その部分の費用は売主負担となる場合があります。

    基本的な調査費用は仲介手数料に含まれる

    物件の現地確認や役所・法務局での調査、市場価格のリサーチ、契約書類の作成など、弊社を含む不動産会社が行う一連の業務に対する報酬は、原則として「仲介手数料」に一本化されています。そのため、物件調査だけを切り出して請求されることは通常ありません。

    仲介手数料の上限は宅地建物取引業法で定められており、

    売買価格が400万円を超える場合
     売買価格 × 3% + 6万円(別途消費税)

    という計算方法が一般的な目安です。
    (800万円以下の低額売買の場合は、上限が一律で設定される特例があります)

    仲介手数料は「売買契約が成立したとき」に発生する成功報酬ですので、売却に至らなかった段階で物件調査費だけを請求されることは、特別な合意がない限りほとんどありません。

    調査の結果、別途費用が必要になるケース

    一方で、物件調査を進めるなかで次のような点が判明した場合は、売主負担で追加の手続きが必要になります。

    • ・隣地との境界が確定しておらず、確定測量が求められる
    • ・登記名義が古いままで、相続登記や名義変更登記が必要
    • ・登記簿上の地積と実測面積が大きく異なり、地積更正登記が必要
    • ・建物を取り壊して滅失登記を行う必要がある

    これらは物件調査というより、「売れる状態に整えるための前提作業」であり、その費用は売主の負担となるのが一般的です。相続登記については、現在は原則として申請義務が課されており、売却の可否にかかわらず早めの対応が望ましい手続きです。

    測量費や各種登記費用は、土地の広さや状況、依頼先によって金額が大きく変わります。調査の段階で追加手続きの必要性が見えてきたタイミングで、不動産会社や司法書士・測量士などに見積もりを取り、納得したうえで進めることが大切です。

    調査内容によっては「売れる価格」にも影響が出る

    物件調査は、費用だけでなく「売値」にも直結します。たとえば、次のような事実が判明した場合、一般的な相場より売却価格を抑えざるを得ないケースがあります。

    • ・土壌汚染や埋設廃棄物など、土地の利用に支障が出る可能性
    • ・古い井戸や浄化槽など、撤去や埋戻しが必要な地中埋設物の存在
    • ・建ぺい率・容積率・高さ制限などを超えている既存不適格建築物であること
    • ・再建築ができない、あるいは大きく制限される接道状況

    こうした点は、調査をして初めて明らかになることも少なくありません。 売主としては耳の痛い情報に感じられるかもしれませんが、事前に把握しておくことで、

    • ・価格設定を現実的なラインに調整する
    • ・条件付きで売り出す(現況有姿、買主負担での改修など)
    • ・買取業者や投資家向けにターゲットを切り替える

    といった戦略を立てることができます。結果として、売却までの時間短縮や、後々のトラブル防止につながることも多いです。

    不動産売却は「正しい物件調査」から始まります

    そして、その調査精度こそが、売却成功の鍵です。弊社では、経験豊富なスタッフが、役所・法務局・現地を丁寧に調査し、最適な価格設定と販売計画をご提案します。

    「何から始めればいいかわからない」
    「まずは物件を見てほしい」
    「相続や測量のことで不安がある」

    どんな段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。不動産の売却は、ぜひ日宅におまかせください。